NED-WLT:フィクション
2011-02-09T23:21:39+09:00
NED-WLT
オランダから帰国し、日本での生活がはじまりました。twitter: joesakai
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電車と梅の木
http://nedwlt.exblog.jp/14335226/
2010-05-08T13:39:00+09:00
2011-02-09T23:21:39+09:00
2010-05-08T13:39:55+09:00
NED-WLT
フィクション
さきほどまで、僕はこの電車の中にいて、窓から外をながめていたはずだ。でも今は、ホームに到着したこの電車に、これから乗り込もうとしている。
電車が停まり、扉が開いた。それほど混んでいない。誰も降りようとはしない様子。
「では」という気持ちで、僕が電車に足をかけた瞬間、電車を降りてくるもう一人の僕とすれ違った。僕は、動いている自分がこれほど醜い存在とは知らなかった。でも、この事実に気がつけたことは収穫だった。
今度は電車を降りたほうの自分になりながら、僕は駅の改札口を抜ける。切符は持っていないようだが、気にならない。駅からの道のり、自分がどこに行こうとしているかも分からなかったが、とにかく周囲には梅の木があった。
植物には詳しくないのだけれど、それは梅の木だと思った。
(注)フィクションです。
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「消費された夢」 2007-01-10]]>
傘の忘れ物
http://nedwlt.exblog.jp/11120878/
2009-03-17T18:25:00+09:00
2011-01-24T10:39:44+09:00
2009-03-17T18:27:17+09:00
NED-WLT
フィクション
すこしあって、僕が変だと思っていた「それ」とは、どうやら傘をさしている「人」のことではなくて、晴れた日に人にさされている「傘」のことのようだと気が付いた。
傘は、黒くてやや大きめの男物で、新しくない。ずっと昔に家族の誰かが、突然降りだした雨をしのぐために、デパートの入り口近くにある「鍵屋」で、あまり良く選ばずに購入した傘なのだ。そんな傘に違いなかった。
その傘を見た日から僕は、一人で夕食を食べるときはいつも、もはや冒険に値するような前人未踏の地が残っていないのは、あの傘のせいだという妄想をするようになった。
さらに僕は、どうにかしてあの傘をあの人から奪って、東武伊勢崎線の優先席の脇にある銀色の手すりに、意図的にそれを「忘れ物」として置いてくる必要があるという思いにとりつかれた。
傘の軸に書かれた名前を頼りに、その傘が「忘れ物」として再び持ち主のところに帰ったとき、そこに新しい前人未到の地が生みだされ、それこそが傘の持ち主を冒険へと向かわせるのだ。
そんなことを考えた。
(注)フィクションです。
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「消費された夢」 2007-01-10
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窓枠から出られない
http://nedwlt.exblog.jp/9300104/
2008-07-26T13:15:00+09:00
2011-01-24T10:40:11+09:00
2008-07-26T13:16:01+09:00
NED-WLT
フィクション
僕は、あのトラックがついに動き出し、窓枠の視界から出ていくことを祈っているのだが、もう長いこと動く気配がない。
もしかしたら、あの緑色をした倉庫は、カーニバルに興奮した若者たちの火遊びによって焼けてしまったのではないか。
そう思うと、僕は窓枠の左下でタバコを吸いながら、キューバから届くはずの「何か」を待っているトラックのドライバーのことが、急にかわいそうに思われた。
窓枠を通して世界を見ている僕は、その「何か」とは、実は干しバナナであることを知っている。しかし彼は、自分が何を待っているのかすら知らないのだ。
僕は、ここから外に飛び出して、彼が待っているのは干しバナナであること、そして干しバナナはもはやキューバから届かないかもしれないことを、彼に伝えることはできる。
だが、僕は間違っているかもしれない。
(注)フィクションです。]]>
組織の意味は
http://nedwlt.exblog.jp/5905986/
2007-04-17T03:15:00+09:00
2011-01-24T10:40:48+09:00
2007-04-17T03:15:36+09:00
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フィクション
「次の方、どうぞ。」
くたびれた病院の待合室のようなこの面接会場で、ポールスミスのスーツにロレックスのエクスプローラーなどを合わせているのは俺ぐらいのものだ。別にポールスミスだとかロレックスだから偉いということは全く無いが、あの企業に入社してからというもの、俺は良いモノにこだわるようになった。
あの企業では、入社式で「おめでとう」と言われた。既に勝ちが決まったのだ!毎晩のように催される部署や本部レベルの歓迎会では、俺のことをこれほどまでに受け入れてくれた人々の、その温かさに感激した。本当を言うと、あの企業は外資系コンサルの滑り止めだったのだが、歓迎会を重ねるうちに、そんなことはどうでも良くなった。あの企業のためなら死ねるとすら思った。
毎日終電近くまで仕事をした。忙しいというのは、会社に必要とされている人間にだけ許された勲章だと考えていたし、だいたい早く家に帰ったところで仕事以上に楽しいことなど無かった。俺は職場や関連会社の間でも「デキル奴」として一目おかれていたと思う。忙しくてタクシー帰りが多くなると、俺はむしろその事実を自慢にしていたし、周りもそれを自慢だと受け取っていた。
あの頃は、皆が俺の話を聞いてくれた。俺も得意になって俺の考えを披露した。顧客をてこにして仕入先を怒鳴りつけるときには喜びすら感じていた。電車はグリーン車だったし、フライトはビジネス・クラスにしか乗れない身体になってしまった。経済誌に顔写真入りで俺のインタビュー記事が掲載されてからというもの、ヘッドハンターから職場にまで電話がかかるようになった。これまでお呼びがかからなかったような同窓会からもしつこく電話が来るようになった。
「次の方、いらっしゃらないんですか?」
あの会社はあっけなく外資系に買収された。社内外から尊敬を集めていた産業本部長がクビとなった後は、我が産業本部では義憤にかられて辞職をする者も少なくなかった。外資が来てから全てがおかしくなった。利益も株価も上がったが、社員が軽視されていると感じた。無理な中小企業の買収によって歴史ある企業文化はズタズタにされた。ついにビジネス・クラスに乗ることが経費の無駄とされ、俺の出張申請が却下されたとき、俺はあの会社を辞めることに決めた。
不思議なことに、あの時は辞表を提出するほうが勝ち組なのだと確信していた。実際あの会社を辞めた連中は皆優秀だ。今でもたまに飲みに行くが、皆でベンチャーでも始めれば大成功すると思う。そしてあの会社を買収した外資系は、自分達が失ったものの偉大さに気が付き、悔しさに涙を流すだろう。でももう手遅れなのだ!
ベンチャーをやるのにも、昔の連中と馴染みのバーに飲みに行くためにも、今日、この金融機関との面接でローン・プランの変更が出来ないとまずい。今住んでいるマンションを売らないとならなくなってしまう。そうなると子供たちも転校だ。とはいえ、他に面接待ちをしている連中の姿格好からしても、俺が一番信頼できそうに見えることに間違いはないと思う。俺を手放したあの外資系に必ず後悔させてやる。
呼ばれてからすぐに立ち上がったのでは、いかにも金に困っているように見えるだろう。そう思って呼ばれてから一呼吸置いて今、立ち上がるのだ。立ち上がろうとするときにスーツのサイドベントをすり抜けて、あの一流企業の社員証が床に落ちてカチリと音を立てた。それを拾いながら窓の外に目をやると、紺色のリクルート・スーツを着た学生たちがパンフレットを振り回して、なにやら楽しそうに歩いている。彼らには、あの外資系企業に辞表を叩き付けた俺の気持ちは理解できないだろうと考えるだけで、何だか日本の将来までもが暗いものに感じられた。
今日はとても良い天気だったのに。
(注)フィクションです。あえて新入社員が新しい環境で頑張り始めた今、知らず知らずのうちに会社に自我を取り込まれてしまうという、どこにでもある風景だからこそ逆に怖く感じられるものを表現したいと思いました(表現できているかどうかは、また別の話です)。現代社会のように他人との関係性が希薄になりがちな時代は、人間は誰かに熱烈な歓迎を通した全人格肯定をされることで、他人の価値観にコントロールされ易くなっているのではないかと思います。これまで誰にも歓迎されなかったような人格にとっては、自分を認めてくれる組織の価値観は絶対的に正しいものに感じられるのは、ある程度は仕方のないことだと思います。自分の可能性を信じてくれた組織の価値観が間違っているとすれば、それは自分そのものが否定されるようなものだからです。しかしそうした思い込みが、組織の価値観を自分個人の価値観に優先させてしまうきっかけになります。そうなれば組織の言うことには何でも従ってしまう「兵隊」の出来上がりというわけです。実はこの一連の流れは決して新しいものではなく、俗にマインド・コントロールとも呼ばれ、古くから宗教の勧誘などで使われてきた手法です。それが意図的であるか否かに関わらず、マインド・コントロールは多くの企業組織にも存在してきたと僕は考えています。余談ですが『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公である碇シンジは、こうした組織の価値観を受け入れることを最後まで拒否し、自分を保っていました。「ここに居ても良いの?」という問いと「果たして自分はここに居たいのか」という問いの狭間で揺れ動く様は、これまでのアニメという枠を超え、純文学に近いものだったと思います。組織からは最高のシンクロ率を出すことができる天才パイロットとして認められつつも、そこから逃げ出すだけの自我を保つことができるというのは相当凄い。言うなれば碇シンジは、将来の社長候補として最大級の扱いを受けつつも、さらりとその場を離れることができる人間と同じ強さを持っていたと思うのです。
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「消費された夢」 2007-01-10
「東京にて」 2005-07-14]]>
消費された夢
http://nedwlt.exblog.jp/5280222/
2007-01-10T03:04:00+09:00
2011-01-24T10:40:48+09:00
2007-01-10T03:04:11+09:00
NED-WLT
フィクション
現在、このマンションの入居率は、およそ6割。私たちが入居した2007年時には抽選をしないと入れないほどの人気物件だったのに、今ではその4割が空き部屋となっている。壊れたエレベーターのせいで、マンションの上層部に行くに従って空き部屋が目立つ。私たちが抽選で「当たり」だと喜んだ最上階の角部屋も、毎日の階段の上り下り付きという、もう若くはない私たちには酷いハズレ物件になってしまった。
マンション売り出し当時は、部屋の8割が売り物件で2割が賃貸物件、どちらも満杯だった。当時は心のどこかでバカにしていた2割の賃貸物件は、不動産会社が倒産した今でも、あの怪しいファンドですら業者を入れてメンテナンスをしていて逆に羨ましいぐらいだ。メンテナンスをしないと貴重な入居者に逃げられてしまうからなのだと思う。その点、マンションを自分のものにしてしまった私たちは、彼らの顧客でもなんでもないのだ。実際に空き部屋となるのは、ローンを繰り上げ返済した家族が住んでいたところばかり。
スプレー缶による落書きはマンションのいたるところになされ、正直寂れた感じにも慣れてしまった。最後に自治会がペンキで落書きを消したのは、もう8ヶ月以上も前のことだ。それにしてもこんな落書きですら、どこか画一的で決まりきったパターンばかりなのが実に日本らしいと言ったところか。以前、息を切らしつつ階段を登っていたときに、若者が落書きをしている現場に出くわしたことがある。彼は、ニット帽を目深にかぶるようなお定まりの格好をした冴えない奴だった。どうせなら本物のアーティストに落書きをしてもらいたいものだ。
先月の自治会で問題になったのは、マンションの2階と6階にやってきた招かれざる住民のことだった。40歳前後の男性4人組(5人組?)で、身なりも決して褒められたものではない。最近は、こうした複数の大人による共同生活は決して珍しくはないのだが、どちらの部屋も扉に鍵をかけず、電気が通っていないところをみると、まず間違いなく不法入居者である。自治会の皆で警察に相談に行ったが、廃墟化しつつあるマンションでの不法入居程度では全く取り合ってくれなかった。唯一被害届けを出せる部屋の持ち主たちは、マンションを売ることはとっくに諦め、この町を離れていて連絡先も解らない。自治会の会合を終えて階段を登りながら、エレベーターの動かないマンションの最上階は、不法入居者にすら人気がないのだと思い当たり、思わず笑ってしまった。
ローンはあと12年も残っているが、マンションを売ることは諦め、来月には私たちもここを出てゆくことに決めた。残りの住宅ローンを肩代わりしてくれ、眩しいほどに真新しい共同住宅に住まわせてくれる中華系メーカー(介護用ロボットを生産している)に、夫婦で転職することにしたからだ。給与は驚くほどに少ないが、代わりに朝昼晩の給食が出るし、共同住宅は会社の持ち物で家賃も格安だ。仕事だって以前から興味を持っていた介護福祉関係の仕事だ。このメーカーに勤務する人は休暇もきちんと取れているということは、掲示板でも確認済み。何より家内が共同住宅に付いているキッチンをひどく気に入っているので、私も少しだけ明るい気分だ(給食があるのに、キッチンを使う機会があるのどうかは不明だが)。
大勢の大人が一同に集まって、決められた時間に給食を食べるなんて少し悲しい気がするが、これからは仕事も食事も家内と一緒だし、ピカピカのキッチンもあるし、きっと慣れると思う。契約では向こう20年間、この給食生活をしないとならないことになっているが、あの危険な廃墟に暮らすよりは100倍ましだ。
メーカーとの契約にサインをして晴れ晴れとした気持ちで自分のマンションに帰る途中、廃墟ツアーを楽しむ裕福な外国人の集団に写真を撮られた。昔、家内と香港旅行をした時に、自分が九龍城でしたことの本当の意味がこの時やっと理解できた。家に戻った私は、なんとなく当時の自分が九龍城界隈で撮影した写真を引き出してきて、そこにこのマンションの周辺ではすっかり見かけなくなった子供が大勢いることを発見して驚いた。
最近は、関東近郊の空気には茶色い油が混じっている感じがして実に不快だ。メーカーとの契約が切れる20年後には、もう少し空気の良いところに住めるだろうか・・・。
(注)もちろんフィクションです。野暮ったいですが、これは臆病者の僕が妄想する、このまま何も目だった変化が起こらなかった場合の日本の未来です。我々には、まだコントロールできる未来もあるはずです。こうならないために出来ることは、まだ沢山残されているのではないか、という気持ちを込めています。
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東京にて
http://nedwlt.exblog.jp/2275483/
2005-07-14T02:07:00+09:00
2011-01-24T10:41:26+09:00
2005-07-14T02:05:53+09:00
NED-WLT
フィクション
「・・・落ち着いて行動しましょう。」
キャスターのこの台詞と同時に画像が出た。それは新宿駅南口に、道路にまではみ出て人が溢れかえっている状況で、どうやら電車はほとんど動いていない。携帯のニュース配信を確認すると、「財務省が日本の財政破綻を発表(4時45分)」との見出しがある。テレビ画面に、1ドルは182円90銭~183円という表示が一瞬出て、すぐに消えた。
PCに向かったが、アクセスが集中しているためか、日経や読売のニュースサイトは重くて開かなかった。国家が破綻するとは具体的にはどういうことなのか想像ができなかった僕は、とにかく耳に残っていたキャスターの「国債」という言葉をキーにして、検索をしてみることにした。
「財政破綻 国債」
ここでも、検索で上位にくるサイトはとにかくつながらない。それで回線が混んでいなそうな、ヒット順位の低いサイトを選んでネットを徘徊した。そうしたサイトによると、どうやらこれからかなりのインフレになり、銀行はもちろん、多くの企業が倒産するらしい。その影響は中産階級においてもっとも大きいということも解った。自分はこの中産階級に属するだろうか。昔、歴史の教科書で見た、パンを買うために荷台一杯に紙幣を積んだドイツおばさんの白黒写真を思い出していた。
同期のKから携帯に電話が入った。電車がほとんど動いていないので、今日は有給扱いの自宅待機ということだったが、Kは連絡係として中野にある社員寮から本社まで、この雨の中を自転車で出たのだという。Kによると、霞ヶ関周辺の道路や銀行本店などの「主要」な施設は自衛隊によって完全に封鎖されているらしい。ふと、自分が持っている現金が気になったが、偶然昨日引き出しており、3万円弱が手元にあることを確認しながらKとの電話を切った。
何気なくベランダに行き、向かいのビルの1階にあるコンビニに目をやると、かなりの人数の人だかりができていた。それで食料を今のうちになんとかしておかないといけないことに気がついた。そのとき、コンビニのガラスが割れた。
怒鳴り声がビルに反射して響く。家の電源が落ちた。テレビは消えたが、PCは新調したノートパソコンだったのでバッテリーモードに切り替わっている。コンビニの明かりも落ち、おそらく会計を済ませていない人々が商品を抱えてコンビニからぞろぞろと出てきている。もしかしたら、あのドイツおばさんのように、3万円で買える商品などもうどこにも無いのかもしれないと思った。
もっと状況を理解したかったが、PCのネットワーク接続はできなくなっていた。今、携帯の臨時ニュース配信では、「国籍不明の軍隊が魚釣島(尖閣諸島)を占拠」というのがトップに来ている。先ほどから空腹だったが、ここには食べるものもなく、どうしてよいやら解らなかった。とにかく携帯の電源をセーブしないといけないということだけは考え付いた。またコンビニのほうから嫌な罵声が聞こえた。
暗い部屋で、PCの画面だけが明るかった。
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