ドイツ街道紀行－3： 生きている中世都市

有名なロマンチック街道沿いにある、ローテンブルグ（Rothenburg ob der Tauber）にも１泊しました。「中世の宝石」とも呼ばれるこの街は、17世紀以降の近代化の波にことごとく取り残されてきたことが原因で、むしろ昔ながらのドイツの姿を現代にまで留めることになった街です。小さな街全体が城壁で囲まれるかたちで、中世ヨーロッパの街がそっくりそのまま保存されています。まさに中世が生きているという感じでした。もちろん、この街はドイツでも有数の観光地で、日本からも毎年多くの観光客が訪れます。この街には、酒飲みの僕には特に面白く感じられる歴史的な逸話が残っています。




ドイツ全土を巻き込んだ17世紀の30年戦争の最中、帝国自由都市として事実上の独立国のような存在だったローテンブルグは、善戦もむなしくティリー将軍が率いるカトリック軍に降参することになります。開城に散々てこずり、大きな損害を出していたティリー将軍は、あふれる怒りの気持ちから、入城するなり次のような宣言をしました。

「ローテンブルグで戦いを指揮した市議会員は全て斬首し、全市は兵士による略奪に任せたあと、これを焼き払う！」

とにかくこの絶望的な状況をなんとかしようと、ティリー将軍にはローテンブルグの人々から土地の上等なワインがすすめられました。やや機嫌が戻った将軍を前に、3リットルを超える量のワインが注がれた巨大なグラスを手にしたヌッシュ旧市長が立ち上がります。

「将軍、お目にかかれて光栄でございます。ところで、このワインを私が一気飲みすることができたら、この街に危害を加えることを止めて頂けますか？」

この一気飲みで街が救われたのは1631年10月30日のことでした。ローテンブルグを救った英雄ヌッシュ旧市長の物語は、今でもお祭りなどでお芝居として繰り返し上演されているほか、街の中央広場にはカラクリ時計があって、そこでも一気飲みをするヌッシュ旧市長と、それを見て驚くティリー将軍とが表現されています。酒飲みには、ローテンブルグはいつか訪れるべき巡礼地だと言えるでしょう（笑）。

（つづく）

参考文献
『ドイツものしり紀行』（紅山雪夫）