ドイツ街道紀行－１： 鉄腕ゲッツの城

先月の中ごろ、贅沢にも今年2度目となるドイツ旅行を楽しみました。その後、北海道への出張などがありエントリの作成が遅れましたが、これから先月のドイツ街道紀行をアップして行きます。

ご存知のかたも多いと思いますが、人気ファンタジー漫画の『ベルセルク』（三浦建太郎著）に登場する主人公ガッツは、中世ドイツに実在した片腕の騎士、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン（Götz von Berlichingen）、通称「鉄腕ゲッツ」をモデルにしているのではないかという噂があります。そんなゲッツが晩年をすごしたとされる城がホルンベルク城（Hornberug）、別名ゲッツの城（Gotzenburg）です。今回のドイツ旅行では、このゲッツの城にも立ち寄りました。

ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン（1480～1562）の生きた時代は、戦争で腕や足を失い、路頭に迷う戦士が少なくありませんでした。若年時代のゲッツも、戦闘中に被弾して右腕を失ってしまいます。しかしゲッツは、失った右腕の代わりに精巧に作られた義手を採用し、その後も義手で剣を振り、戦場で衰えることなく激しく戦い続けたのだそうです。彼はいつしか人々から「鉄腕ゲッツ」と呼ばれ、戦場で恐れられる存在となったのです。

右の肖像画は、現在のゲッツの城に併設されていたレストランにあったもので、鉄腕ゲッツ45歳の時のものだとか。随分と重そうな鎧を着けていますね。
この鉄腕ゲッツにまつわるストーリーが有名になったのは、ゲーテの戯曲、『ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン』（1773年）の影響が大きいようです。この戯曲では、鉄腕ゲッツは自由を愛する孤高の騎士として相当に美化されています。

もちろん、ゲッツの城の内部にも入ってきました。



ゲーテによって美化されたゲッツとは異なり、実際の鉄腕ゲッツは、傭兵隊長として信義とは関係のない数々の戦争に赴いたり、フェーデといって、決闘で敗れた相手から命乞いのお金を受け取るような商売で儲けていた好戦的な人物だったそうです。とはいえゲッツも常勝というわけではなく、実際に何度も戦いに敗れ、追放されたり監禁されたりしてもしています。とにかく命だけは助かるような強運の持ち主でもあり、当時の戦士としては珍しく81歳という長寿をまっとうしました。年老いてもなお強かったため、60歳を過ぎても皇帝カール五世に招かれ、トルコやフランスとの戦争でも傭兵の指揮をとったとされています。個人的には、何度敗れても、戦場に戻ってきては活躍した鉄腕ゲッツのたくましさに、そしていつしかそれが美化されてしまうあたりに、ビジネスマンとして憧れを感じました（笑）。

この瞬間にわたしは何が詩人を作るかを感じる。それはひとつの感情に満ちあふれる心だ。

ゲーテ、『ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン』第一幕より

（つづく）

参考文献
『ドイツものしり紀行』（紅山雪夫）