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日本語の辞書を引くと、informationとintelligenceは、どちらにも「情報」という訳語が与えられています。実際に日本語の「情報」には、informationの意味も、intelligenceの意味も含まれていますから、この訳は間違いであるとは言えません。しかしinformationとintelligenceという言葉の意味は大きく異なり、その違いを正しく意識することは、近年ますます重要になってきていると思います。
*** アメリカ人の上司に市場調査(market analysis)を命じられて、結果のレポートを提出したところ、 「こんなのは、informationに過ぎない。intelligenceを持って来い!」 なんて言われることも、いつかあるかもしれません。その上司に「今どき、コイツはinformationとintelligenceの違いもわからないのか・・・」と思われないようにしておくことは、色々な意味で無駄にはならないと思うのです。 さて、intelligence。普段、英語に接する機会の多い方であれば、このintelligenceはざっくり言って「知能(的)」というポジティブな意味があり、現実には「諜報」というニュアンスで軍事関係の用語として用いられることが多く、米CIAや英MI6の真ん中のIが、このintelligenceを現している(CIA = Central Intelligence Agency / MI6 = Military Intelligence 6)ということはご存知かもしれません。 では、intelligenceという単語は、それ単独で軍事的な情報のことだけを指すのかというと、必ずしもそうではありません。実際に欧米のビジネスの現場では「market intelligence」とか「business intelligence」、「competitive intelligence」という言葉が頻出しますが、それらの中身は、政府機関によるスパイ活動(military intelligence)とは仮に似ているところがあったとしても、根本的にその目的とするところが異なります。 言葉ですからもちろん曖昧な部分もあるのですが、簡単に言ってしまえば、informationというのは加工されていない生データか、それに近いものです。これに対してintelligenceとは、数あるinformationを必要性や信頼性に応じて取捨選択し、その内容を分析し、さらには分析をする人間の解釈まで加えられているような、informationからは何歩もプロセスが進んだ結果として得られるもののことを指しています。残念ながら、このintelligenceに正しく対応するような日本語の語彙は存在しないので、日本でintelligenceに関する議論をするときは、そのままインテリジェンスというカタカナ語を利用するしかないでしょう。 もう一歩だけ話を突っ込んでおきます。自然にどこからか生まれてくるinformationとは違って、intelligenceは「何らかの決断を助ける」ためにアナリストによって能動的に生み出されます。informationはそこらへんを漂っているものですが、intelligenceにはdecision makerを助けるという明確な存在の目的があるのです。そんなintelligenceには、良いintelligenceと悪いintelligenceを分けるための4つの評価軸が存在すると考えられています(注1)。 評価軸1.timely 良いintelligenceは、何らかの決断のためにこそ求められるのですから、決断にとって常にタイミングが重要である以上、そうしたintelligenceの創出もタイミングが命となります。より多くのinformationを集めることに集中してしまって、タイミングを犠牲にしてしまうのは、intelligenceの創出においては時に「collectionの罠」とも呼ばれ、気をつけて避けねばならないこととされています。informationを完全に収集することは不可能であるとして、あるところでcollectionはスパッと止めて、分析に移らないとならないのです。 評価軸2.tailored 良いintelligenceは、ある決断にとって必要となる深さと幅を持っていることが重要で、冗長だったり、または足りなかったりすることはintelligenceの質に問題があるとされます。逆にいうなら、informationのcollectionをはじめる前に、そもそもどういったintelligenceが求められているのかを明確にしないとならないということです。テーラー・メードの服を作るのに、まず身体の寸法を測らずに、サイズの異なる布を探しに行くことはナンセンスなのです。 評価軸3.digestible (easy to digest) 良いintelligenceは、簡単に理解できるフォーマットになっていないとなりません。社長と偶然同じエレベータに乗り合わせたとき、エレベータ内にいる1分間の間に、新事業の提案をするようなことを、特に「エレベータ・ピッチ(elevator pitch)」と言うことがありますが、まさにこれが最高のintelligenceの形態です。ストーリーが「何をするべきか」という提案に関して明確であることが、intelligenceをdigestibleにするための秘訣です。 評価軸4.clear regarding the know and the unknown intelligenceは限られた時間内に創出されます。無限の時間がかけられない以上、intelligenceのベースとなるinformationのcollectionが不完全なものであることは不可避なのです。よって、優れたintelligenceは必ず探したけれど、見つからなかったinformationに関する言及があります。何を知っているかではなく、何を知らないのかを理解することは容易ではありません。だからこそこれが、intelligenceの質を分けるけるポイントになるのです。 *** ネット環境が今ほど整備される以前の社会においては、informationを多く持っているものが競争を優位に戦うことができました。そんな時代には、informationを得ることができるソース(情報源)をどれぐらいたくさん持っているかが勝敗を分ける鍵となりました。 ところが、ネットで検索さえすれば、読みきれないほどのinformationが入手できる現代社会においては、ソースを多く持つことではなくて、まず検索にヒットするinformationを上手に「捨てる」技術を身につけることが求められます。そして手元に残ったinformationを分析し、自分なりの解釈を加えることで自らの中にintelligenceを蓄積して行くことが重要ではないでしょうか。 今回取り上げたintelligenceに関する勉強を進めたい場合は、特にビジネスの文脈からintelligenceを広く研究している学会、Society of Competitive Intelligence Professionals (SCIP)(=「スキップ」と発音します)をゲートウェイにすることをオススメします。 (おしまい) (注1)ここでは『Intelligence: From Secrets to Policy』(Mark M. Lowenthal著)のp108を参照しています。 「戦略とは何か」 2005-11-10 「「議論を尽くす」という停滞」 2007-07-02
by NED-WLT
| 2007-10-15 04:54
| ビジネス英語カユイ所
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