電車がホームに入ってくる。前から1、2、3両目。進行方向に向かって1番前の扉、その前に僕は立っている。
さきほどまで、僕はこの電車の中にいて、窓から外をながめていたはずだ。でも今は、ホームに到着したこの電車に、これから乗り込もうとしている。
電車が停まり、扉が開いた。それほど混んでいない。誰も降りようとはしない様子。
「では」という気持ちで、僕が電車に足をかけた瞬間、電車を降りてくるもう一人の僕とすれ違った。僕は、動いている自分がこれほど醜い存在とは知らなかった。でも、この事実に気がつけたことは収穫だった。
今度は電車を降りたほうの自分になりながら、僕は駅の改札口を抜ける。切符は持っていないようだが、気にならない。駅からの道のり、自分がどこに行こうとしているかも分からなかったが、とにかく周囲には梅の木があった。
植物には詳しくないのだけれど、それは梅の木だと思った。
(注)フィクションです。
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「
消費された夢」 2007-01-10