金曜日の夜はユトレヒトで。

母校での僕の臨時講義は、MBAやMAの学生だけでなく、卒業生やMBAで学びたいと考えている人もゲストとして参加できるオープンなものなので、僕にとっては良い人脈形成のチャンスになっています。聴講していただく皆様からすればダメで退屈な講義かもしれませんが、僕にとってはこの講義はかなり重要だったりします（笑）。

昨晩は、そんな臨時講義に以前ゲストとして学外から参加してくれた日本の大手広告代理店の方と、ユトレヒトで再会しました。これまた76世代で、しっかしとしたビジョンを持った、こちらがウキウキするほど優秀なビジネスマン（しかもかなりのイケメン）です。

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古い広告の世界で常識だったのは、AIDMA（Attention, Interest, Desire, Memory, Action）という消費者が商品を購買（Action）するまでの一連の流れで、これまで広告代理店はこの流れのかなりの部分をコントロールできていました。ところがネットの登場によって新たに生まれた流れAISAS（Attention, Interest, Search, Action, Share）では、広告代理店は消費者のコントロールを急速に失いつつあるのです。

AISASとは、商品への興味を刺激（Attention, Interest）された消費者は、ネットで検索（Search）して商品の評判や価格を確かめて、良さそうなら購入（Action）し、その評価をブログやSNSなどに発信（Share）するという流れです。最後のShareとは要するに「クチコミ」で、これをコントロールしようとする試みもあるにはあるのですが、まだ全くの実験段階です。

こうした背景から、現代の広告代理店は新しい時代に合わせた新しい売込みの方法を必死に検討しており、さらにこれまでに無かった新しい収入源（社内広告や効果的な企業情報の開示など）なども模索中です。ネットが広告業界に危機をもたらしたことは間違いないのですが、クリエイティブな人たちは、新たなビジネスチャンスの創造が求められている現状にワクワクしています。

とはいえ注意しなければならないのは、長くネットにいると、すべてが「新しい流れAISAS」になってしまったような錯覚を受けるということです。現実には新聞の折込広告や単純な看板ですらまだまだ力があったりします。なんでもネットだと過剰に反応してしまうと、商品を売り込むチャンスをみすみす逃してしまうので、「本当のところはどうなのか」を知ることはとても大切です。

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彼とは、そんな「古い流れAIDMA」と「新しい流れAISAS」のリアルなバランスが、どの程度「新しい流れAISAS」のほうに傾きつつあるのかといったことや、国別に異なる広告の最前線、新たな売り込みの方法や、見直されるべき古い広告の効果など、大いに意見交換できたと思います。

さすが、プロの広告マンは、売り込みに関する知識もアイディアも世間の何歩も先を行っています。問題となるのは、個々のアイディアの評価と、それらをリアルに実現できるのかというExecutionの面ですね。

現代では平均的な消費者が1日に受け取る商業的なメッセージ（広い意味での広告）の総数は30年前の560から、3,500にまで上昇していると言われます。その3,500のほとんどが、それぞれに良く考えられている優れた商品の広告なのでしょうが、さすがにこれだけの商業的なメッセージを見せられている顧客は単純な広告にウンザリしてきています。

こちらが頼んでもいないのに勝手に目に飛び込んでくる広告は、消費者の関心と無関係であれば、目障りな落書きと本質的に変わりません。どちらも見る人をウンザリさせるだけです。消費者をウンザリさせないのは、そんな一方通行な広告ではなく、最低でも消費者の関心とマッチしている広告、そしてより発展的には双方向なコンテンツとしての面白さなのです。

具体的なところでは、例えばマクドナルドが自社ブランドを伏せて「クォーターパウンダー」の専門店を開いて「話題」になったように、クチコミの力が増した現代は、面白いコンテンツに消費者を参加させることによる「上手な話題づくり」が重要だと思われます。

ユトレヒトの、気持ちの良い店員のいる「うるさくない」ジャズバーで、次の時代を代表するような第一線の広告マンとマーケティングについて熱く語った、なんとも贅沢な金曜日の夜でした。

（新しい出会いは刺激になります）

冬の景色

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